「martinique CINEMA CLUB」

• A BETTER WAY

2025.09.25

VOL.01

「martinique CINEMA CLUB」

Text: SHIORI FUJII, Photo: YUKI SAKO

「どんなふうに過ごそうかな?」と考えるだけでワクワクしてくる秋の夜長。束の間、日常の忙しさを忘れて、映画をゆっくり観るのもいいものです。 そこでここでは、ディレクターの塚崎が愛する映画を3 本、厳選してご紹介。どれもストーリーの面白さだけでなく、世界観にどっぷり浸れる映画ばかり。至福の時間をより満喫するために、映画を観ながらすすりたいカクテルと、映画に夢中でも片手でつまめるスナックのレシピを、フレンチビストロorganのオーナーシェフ、紺野 真さんに提案していただきました。
ディレクター私物 イタリア・ミラノの上流社会を舞台に、良妻賢母として富豪の一家を支えてきた夫人が、息子の親友との情事を通して、押し殺していた自分を解放していく姿を描いたドラマ。第83 回アカデミー賞で衣装デザイン賞にノミネート。 2009 年製作/ 120 分/ R15+ /イタリア
英国実力派女優、ティルダ・スウィントンが主演とプロデューサーを務めた逸作。監督・脚本は「君の名で僕を呼んで」などの作品で知られるルカ・グァダニーノ。イタリアの富豪に嫁いだ女性が、子どもたちが自立していくにつれて、自身の人生を見つめ直すというストーリーです。当時、ジル・サンダーのクリエイティブディレクターだったラフ・シモンズが、ティルダの衣装を担当。女性として生まれ変わっていく姿が圧倒的に美しく、ミラノの上流社会のラグジュアリーなインテリアや極上のグルメなども見どころです。
「ルカの初期の作品がすごく好きなんです。彼の故郷であるイタリアへの愛が全てに散りばめられているかのようで。 光や切り取る風景が本当に魅力的。 主演のティルダ・スウィントンは、知的でマニッシュな一面もあり、芯の強さを感じる女性。マルティニークのミューズ的存在の1 人です。そんなティルダが演じるエンマの、心情を物語るようなスタイリングの数々も素晴らしい。ミラネーゼマダムらしいクラシックなスタイルも素敵ですが、どんどんワイルドになっていく彼女が自然の中で恋人と戯れるシーンや、タンクトップ1 枚でスープを作っている素の美しさにもハッとします。そんな彼女の欲望と直結するような食事のシーンがとてもエロティックで。嵐のようなラストも小気味よく、社会や家族にがんじがらめになった大人が選んだ自由の尊さを感じます」(塚崎)
紺野さんは、エンマがやがて恋人となるアントニオのレストランにて食べていた料理をヒントに、エビとハーブのブルスケッタと、それに合うカクテルを考案。 「艶かしいほど官能的な映像表現で描かれていたエビの料理が印象的で。この映画にはやっぱりエビを使いたいと思い、ご家庭でも簡単に召し上がっていただけるようなおつまみを考えました。スーパーで買えるエビ、クリームチーズ、しそ、ディルを和えるだけなので手軽にできます。 エビはレモンやハーブと相性が良いことから、カクテルにもレモングラスのシロップを使いました。ジンを加えずに仕上げれば、ノンアルコールのモクテルとしても味わっていただけます」(紺野)
Io sono l'amore のカクテル
材料(1 人分) ジン   30ml グレープフルーツとレモングラスのシロップ※ 30ml ソーダ  80ml 氷 適量 レモンスライス 1枚
※グレープフルーツとレモングラスのシロップ(作りやすい分量) グレープフルーツジュース 300ml レモングラスの葉(生) 1/2 パック(約7g) グラニュー糖 80g
<作り方> ① グレープフルーツとレモングラスのシロップを作る。ミキサーにシロップの材料を入れ、薄緑色になるまで撹拌し、茶漉しなどで濾す。 ② グラスに氷を入れ、ジン、1 のシロップ、ソーダを加えてステア(手早くかき混ぜる)し、レモンスライスを飾る。
エビとハーブのブルスケッタ
材料(2 人分) エビ  8尾(正味約120g。むきエビでも可) にんにく(薄切り) 1/2 片 クリームチーズ 80g ディル(みじん切り)  2枝 大葉(せん切り)   3枚 レモン汁  適量 バゲット(1.5cm 厚さ) 4枚 EXV オリーブオイル  適量 塩、黒胡椒 各適量
<作り方> ① エビは殻をむき、背わたを取る。バゲットはトースターで軽く焼いておく。 ② フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れ、弱火にかける。香りが立ったらエビを加えて炒め、塩、胡椒、レモン汁で味を調える。 ③ ボウルにクリームチーズと2 を入れ、ディルと大葉を加え、ヘラを使って混ぜ合わせる。味を見て塩、レモン汁で調える。 ④ バゲットにオリーブオイルを回しかけ、3 を等分にのせる。
ディレクター私物 完璧主義者の仕立て屋であるレイノルズは、ウェイトレスのアルマと出会い、その“完璧な身体” をモデルに夢中でドレスを作り続ける。しかし若く情熱的なアルマは、ある日朝食に微量の毒を混ぜ込む…。狂おしい愛の物語。 2017 年製作/ 130 分/アメリカ
ポール・トーマス・アンダーソン監督による、ミステリアスなラブストーリー。50 年代のロンドンを舞台とし、唯一無二のデザインと職人技術でオートクチュール界に君臨する仕立て屋のレイノルズと、若きミューズとなったアルマとの恋愛的パワーゲームがスリリング。 監督自身がディレクションしたという官能的で優美な映像や、レイノルズの格調高いアトリエ、贅沢なドレスなどの美術や衣装は、とにかく洗練されていてエレガント。そんな夢のような世界観と、歪んだ愛の物語に心奪われます。
「監督はクリストバル・バレンシアガの伝記を読んだ後にこの物語を思いついたそうです。序盤のシーンから英国紳士の美学が徹底して貫かれていて、デザイナーとして仕事をしているシーンはもちろん、部屋で寛いでいるシーンから休暇の過ごしかたまで、観ていて惚れ惚れするほど。古き良き時代のファッションハウスの風景、アトリエのインテリア、お針子さんたちのクラシカルな装い、レイノルズの姉のひっつめた髪や赤い口紅、耳飾り、仮縫いの佇まい……。どこを切り取っても美しく、イギリス独特の薄曇りのような柔らかいトーンの光が感じられる映像も好き。 アルマが現れて崩れていくレイノルズの完璧な日常と、愛する人への独占欲に陶酔するアルマの愛の形は、まるで大人のアンデルセン童話。冷や汗をかくシーンですらエレガントなんです。サスペンス要素も含めて秋の夜に合いそうな映画です」(塚崎)
2 人が出会ったホテルのシーンで、レイノルズがオーダーしたウェルシュ・レアビットは、紺野さんがディレクションしているレストラン「Orby Restaurant」のメニューにもあるもの。それを家庭で簡単にできるよう教えていただきました。 「イギリスのトラディショナルな料理で、うさぎ肉の代用として発案されたという説もあるんですよ。日本ではなかなかお目にかかれないトーストですが、僕流においしく仕上げています。ちゃんと作ると手間がかかりますが、今回は一つのフライパンでできるようにアレンジ。ペーストは冷蔵庫で1 週間ほど保存できます。カクテルは、ペーストの味付けに使うギネスビールをベースに、りんごジュースとラム酒を組み合わせました。とても飲みやすいので、黒ビールが苦手な方にも喜んでいただけるはず」(紺野)
Phantom Thread のカクテル
材料(1 人分) ギネスビール(他メーカーの黒ビールでも代用可) 110ml りんごジュース 60ml ダークラム  20ml ライム 1/8 切れ
<作り方> 1 材料とグラスをよく冷やしておく。 2 グラスにラムを注ぎ、りんごジュースを加えて軽くステアする。ギネスビールを加え、ライムを飾る。ライムを搾っていただく。
ウェルシュ・レアビット
材料(2 人分) ペースト(作りやすい分量) 薄力粉 30g バター 30g ギネスビール 70g ディジョンマスタード 20g シェリービネガー(白ワインビネガーでも可) 20g パルミジャーノチーズ(削りおろす) 35g はちみつ 4g にんにく(すりおろす) 4g リーペリンソース(ウスターソースでも可) 適量 食パン6枚切り) 2 枚 バター、リーペリンソース 各適量
<作り方> ① 小鍋に薄力粉とバターを入れて弱火にかけ、バターが溶けたらヘラでよく混ぜながら、ふつふつと沸騰した状態で30 秒ほど加熱する。 ② 残りの材料をすべて加え、焦げつかないように絶えず鍋底をヘラでかき混ぜる。沸騰してから1 分ほど加熱し、アルコールを飛ばす。とろりとしたペーストになったら火から下ろし、粗熱をとる。 ③ 食パンにバターを塗ってからペーストを塗り、トースターでこんがりと焼く。焼き上がったら包丁で斜めに切り込みを入れ、食べる直前にリーペリンソースを回しかける。
ディレクター私物 当時、無名の新人監督だったクロード・ルルーシュが、自ら資金を調達して制作した鮮烈なるデビュー作。ソフトフォーカスを効かせた映像に甘美な音楽をのせた、映画史上に輝くラブストーリーの傑作。 1966 年製作/ 103 分/フランス
フランス恋愛映画の金字塔として長く愛されてきた名作。スタントマンの夫を事故で亡くした女と、妻を自殺で亡くした男の出会いと2 人の揺れる心、恋愛の行方を描く。名匠クロード・ルルーシュ監督はヌーヴェルヴァーグ全盛期に、アヌーク・エーメを主演にクラシックな恋愛映画を作り、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。ジャン=ルイ・トランティニャンはこの映画で一躍スターに。 名作曲家、フランシス・レイによるサントラはあまりにも有名。カラー、モノクロ、セピアが混在する映像と、ドーヴィルの遊歩道の景色が印象深い。
「よく知られたフラシス・レイの音楽と、耳に心地良いフランス語。ドーヴィルの冬の海、車窓に流れる美しい映像。 秋になると観たくなる、タイムレスな魅力のある映画です。 ファッション的にも見応えがあり、マルティニークのミューズ的存在でもあるアヌーク・エーメの魅力を最大限に引き出した華美すぎないフレンチクラシックなスタイルは、いつ見てもうっとりとしてしまいます。彼女のグローブ使いやハンドバッグなどの小物使いも粋なんですよね。 ストーリー展開はもどかしく、ザ・フランス映画。気持ちに余裕があるときしか観られない。だけど2 人の目線の駆け引きなど、大人の男女が織りなすしっとりとしたラブストーリーは、観るたびに発見があるのです」(塚崎)
紺野さんによるカクテルとスナックは、舞台となったドーヴィルからインスパイアされたもの。 「ドーヴィルの街があるノルマンディー地方といえば、りんごの名産地。そしてりんごジュースを発酵させたシードルというお酒も人気です。近くには有名なチーズの産地であるカマンベール村があり、同じ土地の食材は相性がいいということで、りんごとカマンベールを合わせたスナックに、シードルを使ったカクテルを考えました。 カクテルは“男と女” を象徴するように、男性的なウィスキーと女性的なやや甘口のシードルをシンプルにブレンドしました。香り付けにレモンピールをあしらっています。バリっとした皮と加熱したりんごの食感、溶けたチーズのまろやかさが楽しい春巻きは、はちみつを加えたマヨネーズをつけるとさらにおいしいですよ」(紺野)
Un homme et une femme のカクテル 材料(1人分) シードル・ドゥー(甘口) 90ml ウィスキー(コニャックやカルヴァドスでも可) 18ml レモンの皮 適量
<作り方> 1 材料とグラスをよく冷やしておく。 2 グラスにウィスキーを注ぎ、シードルを静かに注ぎ入れる。レモンピールをのせる。
りんごとカマンベールの春巻き はちみつマヨネーズ添え
材料(2人分) カマンベールチーズ  120g りんご 1/2 個 生ハム(スライス) 4枚 春巻きの皮 4枚 マヨネーズ 50g はちみつ 20g 揚げ油 適量
<作り方> 1 りんごは皮のまま芯をくり抜き、4mm 厚さに切ってから1.5 〜2cm 長さに切る。カマンベールチーズは30gずつに切り分ける。 ② 春巻きの皮を広げ、手前に生ハムを広げて置き、その上にりんごとカマンベールチーズをのせる。手前から巻いて包み、巻き終わりは水溶き小麦粉(分量外)を塗って留める。 ③ 180 度に熱した揚げ油に入れ、きつね色にカラッと揚げ、油をきる。 ④ マヨネーズとはちみつを混ぜ合わせ、3 に添える。

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