• WHAT IS AN ELEGANCE
2025.09.04
MADISONBLUE デザイナー/ディレクター
中山まりこさん【1/3 章】
「エレガンスな女性の姿に、 フランス人女性の美学を重ねます」
Text: MIKI SUKA, Photo: SHIN JINUSHI
1980 年代からスタイリストとして活躍を続け、2014 年に自身のブランド「MADISONBLUE(マディソンブルー)」を立ち上げた中山まりこさん。掲げたコンセプトは、“ハイ・カジュアル”。経験を重ねた今だからこそたどり着いた、“長く愛される服” へのまなざしがそこにある。流行に流されず、自分の感性に正直に。
そんな彼女が考えるエレガンスとは? ファッションと生き方、そのあいだにあるものを今あらためて紐解きます。
パリと東京、
ふたつの街を行き来する暮らし。
ファッションブランド「マディソンブルー」の始まりは、たった6型のベーシックなシャツからだった。中山まりこさんの美意識を投影したような、洗練された日常着が多くの女性の心をつかみ、瞬く間に支持を集めていった。そんなマディソンブルーは、2018年ごろからフランス・パリでワイルドキャスティングのシューティングを行ったり、2021年にはボナパルト通りでポップアップを開催している。現在中山さんは、年に数回パリへ足を運び、まるで生活するようにパリを楽しんでいる。パリの滞在は、公私ともにパートナーであるフォトグラファーの地主晋さんも一緒だ。
ふたりが滞在するアパルトマンにはやわらかな光が差し込み、窓を開けると初夏の風がやさしく吹き抜けていく。
「今は、2〜3ヶ月おきにパリに来ています。日本から持ってきた洋服を並べて、サロンのような感覚でポップアップを開いているんですよ。でも実は、若い頃はパリが大の苦手だったの(笑)」
そう打ち明ける中山さんが、初めてパリを訪れたのは23歳のとき。当時のパリに、少し閉鎖的な空気を感じてしまったのだという。
「憧れていたぶん、余計にガックリしてしまって。その頃は、どちらかというとNYの自由な雰囲気に惹かれていたんですよね」
“嫌いだった街” が、人生の転機をくれた。
そんなパリへの思いが180度変わったのは、2017年の夏。パリ装飾芸術美術館で行われた、ディオールの大回顧展『Christian Dior, Couturier du Rêve』展がきっかけだった。のちに世界中を巡回するこの展覧会は、ファッションの世界に生きる中山さんの心を大きく揺さぶった。
「ディオールの回顧展なら絶対にパリで見なくちゃって、迷わず現地へ飛びました。あの展示は本当に衝撃的だった。オートクチュールのドレス、バッグ、シューズ、香水まで……なんだか夢のような世界でしたから」
展覧会を観たあと街に出ると、そこには、堂々としたマダムたちの姿があった。カフェテラスでコーヒーを飲む仕草、さりげなく足を組む動作、そしてふとした瞬間の微笑み。パリのマダムたちの所作には、すべてに“エレガンス”が宿っていた。
「パリの女性たちは、間合いの取り方が本当に上手なんですね。振る舞いにも品がある。そんな姿を見て、“エレガンスってこういうことなんだな”って、心から思いました」
それは、ファッションだけではない、空気をまとうような優雅さだったのだろう。無理のない、けれど自信に満ちたパリのマダム達の存在感に、中山さんは惹かれていった。
自分らしさをまとう、
ジュエリーとシャツの関係。
流行にとらわれず、自分らしさを大切にする――。フランス人女性のそんな姿に影響を受けた中山さんは、所作も身にまとうものも、自分の感性に正直でありたいと前を向く。そんな彼女にとってエレガンスを象徴するアイテムのひとつは、ジュエリーだ。
「シャツの隙間からのぞくジュエリーに、思わず目を奪われたことがあって。ジュエリーは単なる装飾品じゃなくて、身につける人のストーリーを映し出すものだと思うの。自分自身の感性を表現するアイテムですよね。手首や関節には“気”が流れていて、その人の気配がにじみ出るところ。そこにジュエリーを添えることで、自然とエレガンスが放たれていくのかも。ふとした瞬間に見える首筋や手元に、女性の色気を感じるんです」
鎖骨に沿って流れる繊細なチェーン、細い手首にしなやかに巻きつくバングル。指先を飾るリングは、動作に表情を与えてくれる。色気をそっと引き立てるジュエリーに、中山さんは心惹かれている。
「装飾品を身につけることって権力の象徴というイメージもあるけれど、それは男性のイメージかもしれません。女性の場合は華奢なアクセサリーを身につけることで、しとやかな女性性をすごく強調すると思います」と、地主さんも納得の表情だ。
原点に立ち返る、25 周年の別注シャツ。
女性らしいジュエリーを一層引き立たせるのは、中山さんのブランド「マディソンブルー」の原点ともいえるシンプルなシャツだ。上質なコットン素材のシャツを羽織れば、開いた胸元から覗くジュエリーが光を受けて輝く。
この度、そんな“シャツ”という原点に立ち返り、「martinique(マルティニーク)」の25周年を記念したコラボレーションが誕生した。
「25周年を迎えたマルティニークが、“原点にかえる”と表現されたことにとても共感しました。私にとっての原点は、ワークシャツとジャケット。この10年間、ずっと作り続けてきたアイテムです。双方の“原点”を共に形にできたことが、本当にうれしいんです」
ブランドを立ち上げる前から、メンズのワークシャツを愛用していた中山さん。別注のシャツにも彼女が大切にしてきたメンズライクな要素を反映させている。
「私が持っているシャツは、ほとんどがメンズのワークシャツ。マディソンブルーの“ハンプトン”と名付けられたシャツは、そんなメンズらしい無骨なデザインに影響を受けつつも、女性がふわっと羽織ることを前提につくっています。それに、シャツを着ると背筋をピンと伸ばしたくなる。シャツを着ると佇まいがエレガンスになる気がする。シャツにはそんな役割もありますよね」
袖をくしゅっとたくし上げて着ることを前提にデザインし、別注ではさりげなくあしらわれたパールが上品さを添える。素材は、ハリと光沢感のある上質なウール。羽織ってもスカートにインしても、光と陰のコントラストが自然なエレガンスを演出してくれるのだ。中山さんが実際に身にまとうその別注シャツは、フランスのやわらかな光をまとったかのように、上品なツヤを放っている。
MADISONBLUE デザイナー/ディレクター
中山まりこ
1964年生まれ。1980年代よりスタイリストとして活動。1980年代後半、ニューヨーク在住時に雑誌『Interview Magazine』等でスタイリスト活動・ 雑誌のコーディネーターの他、NOKKO全米デビューのディレクターとして活躍。1993年に帰国し、広告・雑誌・音楽のスタイリングをメインに活動。2014年、自身のブランド「MADISOBLUE(マディソンブルー)を、6型のシャツからスタートさせた。