• WHAT IS AN ELEGANCE
2025.11.10
MADISONBLUE デザイナー/ディレクター
中山まりこさん【3/3 章】
「大人の今だから感じる、美しさとエレガンスの新境地」
Text: MIKI SUKA, Photo: SHIN JINUSHI

「国内を旅するうちに、日本の文化や所作、静けさのなかにこそ、本当の美しさがあることに気づいたんです。たとえば、京都のすき家造りの建築や、和の空間で求められる所作、そして、日常的に靴を脱ぐという何気ない動作までも……」
日本人が積み重ねてきた建築や文化だけでなく、時間の流れを感じさせてくれる古い街並みや日本人の思いやり、人と人とのあいだに流れる間合いや仕草、控えめながらも芯のある日本人の佇まい。そうしたすべてに、中山さんは“エレガンス”を感じている。
「若い頃は、日本独特のルールが、少し窮屈に思えることもあって。たとえば、母に“食べ歩きはお行儀が悪い”って言われたことがあったので、アメリカ映画の中でコーラ片手にローラースケートで駆け抜ける少女の姿がすごく自由に見えて、憧れていました。でも今では、ささやかなルールの中にこそ“美しさ”があるって感じるようになったんです」
所作や礼儀があるからこそ、日本人は世界のどこにいても、その存在に品が宿る。それは誰かに見せるためではなく、自分の中に静かに灯る誇りのようなもの。成熟とともにたどり着いたその境地は、中山さんの装いにも生き方にも、そっと反映されている。

「自分に何が似合うのか、どうふるまえば美しく見えるのかをちゃんとわかっている人って、エレガンスだなぁと。装いだけじゃなくて、ライフスタイル全体が整っている人。和装か洋装かなんて関係なく、生き方そのものに美しさって宿るだろうなって思います」
装いは、心のあり方を映す鏡。日々の姿勢やものの選び方にも、その人らしさがにじみ出すものだと、ふたりは考えている。
「真面目すぎるより、ノンシャランな方が私は好きなんですよ」
そう中山さんは、やわらかな口調で微笑む。
「自分の立ち位置をちゃんと理解していて、誰に対しても対等に、でも心地よい距離を保てる人。そのバランス感覚に、私はエレガンスを感じるんだと思います」
張りつめすぎず、どこか肩の力が抜けていて、それでいて芯がある。そんなパリの女性たちのようなスタイルが、今の中山さんにとっての“理想のエレガンス”。

自分らしい生き方を貫いて。
「“オンオフ”とか“ライフバランス”とかよく言うけれど、私の場合は働くことで世界がどんどん広がっていった気がする。子育てに全力を注ぎながらも、仕事を通してさらに深く外の世界に飛び込むことができたから。出会いや失敗、全部が大切な成長の一部。だから私、仕事を生活から切り離してしまったら、きっと魂が抜けちゃうと思うんですね」
その言葉にうなずく地主さん。
「仕事も暮らしも、感情も全部が混ざり合ってこそ、彼女らしい人生になる。創り続ける人って、そういうものだと思うんです」
未来がどうなるかは、まだわからない。けれど中山さんは、迷いなくこう語る。
「このまま成長を止めたくないってこと。だって動き続けなくちゃ、毎日が楽しくなくいでしょ!」
今この瞬間を、しなやかに楽しむ姿。やわらかな光を帯びたその眼差しには、年齢でも肩書きでも測れない、凛とした美しさが宿っている。それは、彼女の生き方そのものが放つ、“エレガンス”の光だ。
MADISONBLUE デザイナー/ディレクター
中山まりこ
1964年生まれ。1980年代よりスタイリストとして活動。1980年代後半、ニューヨーク在住時に雑誌『Interview Magazine』等でスタイリスト活動・ 雑誌のコーディネーターの他、NOKKO全米デビューのディレクターとして活躍。1993年に帰国し、広告・雑誌・音楽のスタイリングをメインに活動。2014年、自身のブランド「MADISOBLUE(マディソンブルー)を、6型のシャツからスタートさせた。