「文化に触れる旅が、静かなるインスピレーションに」

• INTERVIEW for JOURNEY

2025.10.09

VOL.02
Tu es mon Tresor デザイナー
佐原愛美さん

「文化に触れる旅が、静かなるインスピレーションに」

Text: MIKI SUKA

リアルに新しいものに触れられること−−。「Tu es mon Tresor(トゥ・エ・モン・トレゾア)」のデザイナー、佐原愛美さんの心を動かすのは、旅することで出合える“本物の魅力”。建築やデザイン、文学が息づく自然豊かな土地を訪れることが、心を穏やかにする。同時に、次のデザインのインスピレーションが芽吹き、やさしいカラーバリエーションと、シンプルで心地よいデニムウエアへと姿を変える。心惹かれるテーマを持った旅先選びもまた、デザイナーである彼女らしい感性の表れ。
Q. 思い出に残っている旅先を教えてください。
昨年の11月、フランスのフランシュ・コンテ地方の小さな村、ロンシャンへ行きました。ロンシャンの礼拝堂(ノートルダム・デュ・オー礼拝堂)」という、ル・コルビュジエの建築を見に行くことが目的でした。パリから列車で4時間くらいかかるやや不便な場所で、この街にはその礼拝堂しかなく、おまけにオフシーズンだったようでレストランもやっていなかったのですが、逆にそれがすごく特別に思えて、本当に静かで良かったんです。わざわざ行った価値があったと思える場所でした。
Q. この時の旅では、どんなところに宿泊されたんですか?
フランスの民宿である、シャンブル・ドットに宿泊しました。私が泊まった宿には、まるでコルビュジエのような風貌の素敵なオーナーがいて、早朝、彼の部屋からクラシック音楽が漏れ聞こえてきた時に、なんかいいなぁと思いましたね。
 
Q. 素敵ですね。他には、どのような旅をされていますか?
アンドレア・ジッテルというアメリカ人のアーティストがいるのですが、その女性が作った家がカリフォルニア州南東部のジョシュアツリー国立公園のど真ん中にあるんです。その一軒家に泊まれるということがわかって、友人たちと1週間くらい滞在したことも思い出深い旅行です。滞在中に次の予約もしようかって思うくらい、本当に素晴らしい場所だったんです。周囲が、荒野の砂漠というのもすごく魅力的で、朝から砂漠にハイキングに出たり、自然の中での滞在を楽しみました。厳しい自然環境のせいで、人の手があんまり入ってないのも、とても良くて。だからなのか、アーティストがのびのびと生活している感じがあり、アンドレア・ジッテルの暮らし追体験できるような場所でした。
Q. アンドレア・ジッテルの家では、どのような時間を過ごしたのですか?
アーティストの友人が一緒だったので、ワークショップをしようと言ってコラージュをしたり、みんなで料理をしてパーティーをしたりという時間でした。その家には、アンドレア・ジッテルが実際に読んでいた本がそのまま並んでいたので、たくさんの本を盗み見ながら、次のコレクションのインスピレーションをもらう時間もありました。彼女が使っていたであろうものがそのまま置いてあるので、本棚のものも、もしかしたら一軍じゃないかもしれないなと思いながらも、彼女がどんな本を読んでいたのかな? なんて、想像を膨らませられるワクワクした時間でした。
Q. 何度か訪れている、お気に入りの旅先はありますか?
すごく好きで何度か訪れている旅先が、スイスにあります。「テルメ・ヴァルス」という、建築家のピーター・ズントーの代表作とも言われている温泉施設です。地元の石を切り出して作られた建物に、温泉が引かれていて、デジタルの持ち込みも禁止。本だけを持って、温泉のプールサイドで寝そべって……。本当に静かな時間を過ごせます。夜もこの温泉プールに入れるので、夜空を見ながら過す時間は格別です。ゲストの年齢層も高めで落ち着いて過ごせるので、すごく好きな場所です。
Q. ズントー、コルビュジエ、ジッテル。佐原さんの旅は、デザインや建築の触れたいものがはっきりしているのですね。ブランドのインスピレーション源にもなったりするのでしょうか?
そうですね。旅する時はいつも、その時に興味がある作家や建築家、アーティストのゆかりの地を訪れることが多いです。そういう人たちの、ものづくりの姿勢や考え方みたいなものは、服作りにも反映できることがたくさんあります。人と家、人と服のように、生活に寄り添うものとしてどうあるべきかみたいなところは、学びにもなっていると思います。
My necessities
Q.いつも、旅先に持っていくワードローブを教えてください。
  • 【小さなバッグ】
    01

    【小さなバッグ】

    きちんとした小さめのバックを必ずひとつ持っていきます。このシャネルのバッグは、初めてひとりでパリの合同展示会に参加した時、最終日に何か相方を連れて帰ろうと思って、カンボンのシャネルで買いました。当時、自分を支えてくれた存在のバッグで、ずっと大切にしています。

  • 【本】
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    【本】

    いつも旅先にあった本を選ぶのですが、10冊くらい持って行く時もあります。ちらっと最初の方だけ読んで決めるのですが、持っていく本を選ぶのも楽しい時間ですね。旅の前に読んでおきたい本もあったりします。今回選んだのは、次の旅先に関係するヴァージニア・ウルフの本です。

  • 【フィルムカメラ】
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    【フィルムカメラ】

    20年近く愛用している、「ナチュラ クラシカ」というフィルムカメラ。普段はそんなに写真を撮らないのですが、旅先では写真を撮るので、一枚一枚を大事に撮ることのできるフィルムカメラを持っていきます。フィルムの色味とか昔っぽい雰囲気もすごく気に入っています。

Q. 旅先に合わせた本を10冊近くも選ぶのは、すごいですね! ヴァージニア・ウルフの作品はどんな旅先に持って行くのですか?
旅に合った本を持っていくのは、すごくおすすめです!ヴァージニア・ウルフの本は今度のイギリスの旅用にセレクトしているところなんです。次の旅行は、まずこの作家ありき(笑)。 イギリス人作家の作品を、ざっと有名なところから読み始める期間がまずあって、それで気に入った作家のゆかりの地を巡るというスタイルです。現地には、たいてい有名な作家の記念館や博物館、生家などがあるので、巡りやすいのもいいですよね。 次の旅では、このヴァージニア・ウルフが暮らしていた「モンクス・ハウス」を見に行くことにしました。彼女の姉で画家のヴァネッサ・ベルの家も近くにあるみたいなので、そこも訪れてみたいですし、ちょっと足を伸ばして映画監督で造園家のデレク・ジャーマンの庭も見てみたいです。あとは、建築家のチャールズ・レニー・マッキントッシュが残した名建築を巡るのも、同時にできたらと考えています。
Q. 旅には、どのようなファッションで出かけますか?
旅先では動くことが多いので、ジーンズやカットソーなどカジュアルな服が基本ですが、旅行中に1度はいいレストランにも行きたいと思っているので、ドレスのような正装服も1着は持って行きます。靴も、スニーカーとドレスに合わせたパンプスも持っていきます。
Q. マルティニークのアイテムで旅先に持っていくとしたら、何を選びますか?
【デニムのセットアップ】マルティニークさんの別注で作った、ライトグレーのオーバーシャツと、同色のワイドバギーです。軽やかなデニム地なので、旅にも持っていきやすいです。淡いグレーは先染めの糸を使っていて、それをさらにブリーチして落として、やさしい色合いを作り出しています。シャツにはポケットもついているので、旅にはとても便利だと思います。
【カットソー】何枚あってもいいくらい、薄くてシワになりづらいので、旅には最適なカットソーです。旅先でさっと洗えるのも、おすすめポイントです。
佐原愛美

Tu es mon Tresor デザイナー

佐原愛美

2010年に「トゥ・エ・モン・トレゾア」をスタート、2020年にクリエイティブなデニムブランドとしてリブランディング。
近年、建築家・吉村順三が設計した熱海の邸宅におけるインスタレーションなど、ファッションを軸足に、建築、家具、工芸、写真など、広範な文化的領域を横断するような表現活動を行なっている。

INTERVIEW for JOURNEY

「旅の途中にある、偶然の出会いを大切に」

VOL.01 
スタイリスト、ファッションエディター
大草直子さん

「旅の途中にある、偶然の出会いを大切に」

2025.09.04