「エレガンスは、見えない準備があるからこそ」

• WHAT IS AN ELEGANCE

2026.02.05

スタイリスト 川上さやかさん
【2/2章】

「エレガンスは、
見えない準備があるからこそ」

Text: MIKI SUKA, Photo: TOMOKO MEGURO

スタイリストとして多方面で活躍する川上さやかさん。ファッション誌や広告、ブランドとのコラボレーションに加え、著書『おしゃれになりたかったら、トレンドは買わない』では、シンプルで上質、そして等身大でいられるスタイリングが多くの女性の共感を集めている。自らの“好き”という直感を信じて歩いてきた川上さん。等身大の自分を大切にしながら見出した“大人のエレガンス”とは何か。その答えを求めて、川上さんの日々の選択と言葉をたどる。
スタイリストの原点は、幼い頃の憧れ。
柄のついたネクタイやカフスボタン、腕時計。華奢なネックレス、パリッとしたシャツ──。共働きの両親が出勤のたび、家とは違う“働く大人の装い”に変わる姿を見るのが好きだったと語る川上さん。幼いながらに、そのきちんとした格好に胸をときめかせた記憶は、スタイリストとしての職業観に残されているようだ。彼女が感じるエレガンスの原点は、まさにあの頃に見た、働く大人の背中なのだろう。
所作と見えない準備が作る、大人の余裕。
「アシスタント時代からお世話になっているエディターさんに、“エレガント”という言葉がぴったりの方がいて。所作も話し方も美しくて、焦る姿を一度も見たことがないんです。でもそれは、裏側でどれだけ準備をしているかということなんだと、最近特に強く感じます。生活感が漂わないほど整った佇まい。それは、時間をどう使い、どう整えているかという、その人の積み重ねそのものなんだと思います」

完璧さではなく、余裕を生み出すための“見えない準備”。それこそが、川上さんの考えるエレガンスの正体だ。シャツにきちんとアイロンがかけられていること。パンツにインした時に、裾が美しく収まっていること。一見すると小さな所作だが、その裏にある手間こそが、その人の佇まいを静かに物語る。ここ数年続くクワイエットラグジュアリーというトレンドは、まさにこの感覚と重なる。華美な装飾よりも、素材の良さや整った着こなしにこそ、特別感が宿るという考え方だ。
「エレガンスって、性別を超えたものだと思うんです。シャツとパンツだけなのに、丁寧に着ているだけで品が生まれる。男女関係なく、そういう人にこそ“エレガント”という言葉を使いたいですよね」
子育ての日々で気づく、
”小さなケア”の大切さ。
衣服のケアは、丁寧に暮らしていないと気づけないこと。その時間をどう作り出すか、どういう価値観を持つか。子育て真っ只中の川上さんは、日々の生活を振り返る。
「職業柄どうしても気になってしまうんですよね。お手入れが大変そうな服は選ばなくなったし、足元にも気を配るようになった。スニーカーの紐ひとつでも、白よりグレーを選んだ方が見た目の清潔感を保ちやすい。保育園の送り迎えで靴を脱ぐことが多いから、最近はそんなところまで気になってしまうんです。これはもう職業病ですね(笑)」
最近のお気に入りは、シワがつかず“きちんと感”が出るウールのシャツ。自分らしさと実用性、そのどちらも叶える存在として、人前に出る時には活躍するアイテムだという。
装いから暮らしへ。
エレガンスは生き方そのもの。
慌ただしい日々の中でも、自分の身なりにほんの少し心を配ること。それは単なるファッションの作業ではなく、自分自身に向き合う静かな時間でもある。川上さんは、そんな小さな“手間”ができることに、ずっと憧れを抱いてきたという。その視点はやがて装いから暮らしへと広がり、最近では食についても意識が高まっている。特に気にかけるようになったのが、フードロスの問題だ。

「捨てる食材があってはいけない、と思うようになりました。例えば玉ねぎを3つ買ったら、今夜からの3日間でどう使い切るかを考える。アイロンをかけてシャツを整えるように、食材にも“計画性”が必要なんだと気づいたんです。全部使い切れたときには、小さな達成感があって」

身なりへの気配りが、子どもの食事や家の中のルール、ひいては自分が日々選択する“環境”にまで広がっていく。丁寧に服を扱うことと、食材を無駄にしないこと。どちらも、ほんのわずかな気配りと手間が未来の自分や家族、そして周囲の心地よさにつながっていく。

川上さんの語るエレガンスは、服装やスタイルにとどまらない。身の回りのものを大切に扱い、無理なく続けられる範囲で整え、気持ちのよい循環をつくっていくこと。その積み重ねが、揺るぎない一本の芯となって、彼女の美しさを形づくっているのだろう。
川上さやか

スタイリスト

川上さやか

『Oggi』をはじめ、女性ファッション誌やメディアで活躍する人気スタイリスト。元会社員の経験を活かしたリアルなコーディネートの中に、上品で女性らしさの漂うスタイルが働く女性に支持されている。

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