• INTERVIEW for JOURNEY
2026.03.12
VOL.05
MADISONBLUE デザイナー、ディレクター
中山まりこさん
「原風景を探して、わたしに還る旅」
Text: MIKI SUKA
東京とパリを行き来しながら、ファッションの第一線を走り続ける中山まりこさん。けれど旅先で彼女が求めるのは、ラグジュアリーでも賑わいでもない。小さなスーツケースを手に、向かうのはダイナミックな岩山や砂漠、原風景が残る場所。乾いた空気を吸い込み、ただ静かに立つ時間が心と体をゆっくり整えてくれる。豪華さよりも、本質を。たくさん持つことよりも、足るを知る感覚を。自然のなかで“自分に還る”。そんな彼女の旅のスタイルを紐解く。


Q. 思い出に残っている旅先を教えてください。
セドナには、一度しか行けていないのですが、とても印象に残っています。有名なリトリートホテルやラグジュアリーなリゾートもありますが、私はあえて、ごく普通のホテルに泊まるんです。それで十分。目的はただひとつ、ハイキング。朝6時には宿を出て、ガイドさんと一緒に山へ向かいます。かつて海だった場所が、長い年月を経て砂漠になったこと。土地ごとに異なる植生や地層の話。そんなストーリーを聞きながら歩く時間が、とにかく楽しくて。気づくと、胸いっぱいに深呼吸しています。体の奥まで空気が入れ替わるような感覚があって、あの土地には、特別な浄化力がある気がします。



Q. 他には、どのような旅をされていますか。
もうひとつ、大好きな場所がモロッコです。パリからのアクセスもいいので、以前は毎年のように通っていました。コロナ禍でしばらく足が遠のいてしまいましたが、去年ようやく再訪できました。今でも、ベルベル民族がその土地の土で家をつくり、昔と変わらない暮らしを続けています。モロッコは時間が止まったような、原風景がそのまま残る場所なんです。
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Q. モロッコでは、どんなふうに過ごしているのですか。
フェズからマラケシュを行ったり来たりすることが多いですね。アトラス山脈に沿って、大移動です。途中、ブルーの街として有名なシャウエンに立ち寄ったり、砂漠でステイをしたり。1年ほどかけて、国中を巡った感じです。ダイナミックな自然の景色が続いたかと思えば、マラケシュのような大きな街に入ると、急にヨーロッパの気配が漂いはじめるのが楽しくて。ポストオフィスを改装したバー「Le Grand Café de la Poste」に行くのが、旅の終わりの楽しみです。どこかヨーロッパの空気が流れていて、椅子に座ると「ああ、帰ってきたな」とほっとするんですね。
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Q. モロッコに惹かれる理由は? 買い物もしますか。
古いものがたくさん残っているのに、そこへ現代の人たちが自然に集まって、今の風が混じり合っている。過去と現在が同時に息づいているところに、強く惹かれます。マーケットでは、食器や生地、カーペット、バブーシュを選ぶのが楽しみですね。一時期は、ベルベル人がつくるシルバージュエリーに夢中になって、それだけを探して各地を巡ったこともありました。
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Q. モロッコのお気に入りの宿を教えてください。
滞在はいつも、リヤドを中心に選んでいます。ヨーロッパ人オーナーが多いので、それぞれの美意識や個性が空間にしっかり表れていて、それを見るのが楽しいんです。枕ひとつ、照明ひとつにも、その人らしさが感じられます。なかでも印象的だったのが、ワルザザードにある「Dar Ahlam」という宿。モロッコの中央、砂漠の入り口に佇む小さなブティックホテルです。
20室くらいの客室には、ラグジュアリーなテントタイプもあって完全にプライベート。ゲストの雰囲気にあう部屋を選んでくれて、専属のバトラーが二人つき、朝食もいろんな場所で食べさせてくれるんです。他のゲストと顔を合わせることもありません。食事は菜園で採れたばかりの野菜。ベッドメイキングには、摘んできた花がそっと飾られている。いわゆる“豪華さ”とは少し違う、暮らしの本質に触れるような贅沢です。静かで、深くて、心に残る宿でした。滞在中は山を歩き、途中の中腹にテントを張ってもらって、そこで1泊。何もない景色なのに、満ち足りている。「ああ、これが本当のラグジュアリーなんだ」と、初めて実感した場所です。
20室くらいの客室には、ラグジュアリーなテントタイプもあって完全にプライベート。ゲストの雰囲気にあう部屋を選んでくれて、専属のバトラーが二人つき、朝食もいろんな場所で食べさせてくれるんです。他のゲストと顔を合わせることもありません。食事は菜園で採れたばかりの野菜。ベッドメイキングには、摘んできた花がそっと飾られている。いわゆる“豪華さ”とは少し違う、暮らしの本質に触れるような贅沢です。静かで、深くて、心に残る宿でした。滞在中は山を歩き、途中の中腹にテントを張ってもらって、そこで1泊。何もない景色なのに、満ち足りている。「ああ、これが本当のラグジュアリーなんだ」と、初めて実感した場所です。
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Q. モロッコは食事も美味しいですよね。
本当に、食事には一度も不満を感じたことがありません。朝はパンケーキと搾りたてのオレンジジュース、手作りヨーグルト。昼は街道沿いの肉屋で焼いてもらったお肉を頬張り、夜はリヤドでゆっくりタジン鍋。野菜も肉も驚くほど味が濃くて、海側では魚も新鮮。シンプルなのに、体が喜ぶ味なんです。モロッコにいると、「これで十分だ」と自然に思える。足るを知る感覚を思い出させてくれることも、旅の大きな魅力だと思っています。
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Q. 旅先では、服作りのインスピレーションもありましたか。
初めてモロッコを訪れたのは、クリスマスの時期でした。昼間は10度を超えて穏やかなのに、夜は0度以下まで冷え込むんです。そのとき羽織っていたムートンコートの暖かさに、心から救われました。乾いた気候のおかげで、日中に着ていても不思議と暑くならない。その経験から、「服はファッションである前に道具なんだ」と強く感じました。現地の人々も、動物の革やその土地の自然素材を使って衣服や家具をつくる。すべてに意味と役割があるんですよね。この時私は、装うことの意味を教えてもらったような気がしました。
Q. パリや東京、日常を都市で過ごしているからこそ、自然を感じられる場所に惹かれるのですね。
そうかもしれません。何百年、何千年と変わらない風景が、まだ地球には残っている。昔の人と同じ景色を、今の自分が見ているという事実に、いつも胸を打たれます。セドナの大地も、モロッコの遊牧民の暮らしも。そこには“地球の心”のようなものがあって、ただ身を置くだけで、すっと呼吸が深くなる。自分がいったんゼロに戻る感覚。それが、私にとっての旅の本質です。買い物や消費よりも、ただそこに在ること。何もない場所に身を置く時間こそが、いちばん豊かな体験だと思っています。

Q. 日本国内のお気に入りの旅先を教えてください。
京都・伊根の舟屋を改装して作られたPOP UPのホテル「700'000heures」は、思い出に残っています。伊根湾の穏やかな風景も、日本の原風景といえますよね。穏やかな海を見ながらのピクニックランチなども印象的でした。


Q. 次にしてみたい旅は?
20年くらい前から、いつかやってみたい旅のルートがあって。ハワイからアラスカに行くという旅です。青い空の南国で思い切り遊んだ後に、アラスカでオーロラを見てみたい! あえて冬に。いつか必ず、実現させたい旅ですね。
Q.いつも、旅先に持っていくワードローブを教えてください。



Q. マルティニークのアイテムで旅先に持っていくとしたら、何を選びますか?
【シャツ】シャツは、ドレスと同じくらいの力を発揮するパワーアイテム。MADISONBLUE定番のJ.BRADLEYのシャツを、マルティニークさんと制作しました。軽やかなコットンボイル素材で、ふわっと風をはらむ着心地。リラックス感がありながら、刺繍入りの襟がきちんと立ち上がるので、自然と佇まいがエレガントに整います。旅先で、ついTシャツにジャージやデニムばかりになってしまうけど、このシャツをさっと羽織るだけで空気が変わります。
【フレアスカート】メッシュ素材のフレアスカートはスーツケースに入れてもシワにならないので、旅先にも持っていきます。軽やかな素材なのに、フォルムが美しいので、ドレス的な役割として使えますよね。
【ポリエステル素材のカーディガン】フレアスカートと同素材のポリエステルカーディガンも、旅に似合うアイテムです。ドライタッチでさらっと羽織れるから、暑い日差しの下でも、肌寒い夜でも心地いい。気候が読めない旅先では、こんな一枚がいちばん頼りになります。スカートとセットアップでも良いですし、これにパールのアクセサリーを合わせたら完璧ですね。
MADISONBLUE デザイナー、ディレクター
中山まりこ
1964年生まれ。1980年代よりスタイリストとして活動。1980年代後半、ニューヨーク在住時に雑誌『Interview Magazine』等でスタイリスト活動・ 雑誌のコーディネーターの他、NOKKO全米デビューのディレクターとして活躍。1993年に帰国し、広告・雑誌・音楽のスタイリングをメインに活動。2014年、自身のブランド「MADISOBLUE(マディソンブルー)を、6型のシャツからスタートさせた。