
• INTERVIEW for JOURNEY
2025.09.04
VOL.01
スタイリスト、ファッションエディター
大草直子さん
「旅の途中にある、偶然の出会いを大切に」
Text: MIKI SUKA
ファッション界で長く第一線を走り続ける大草直子さんにとって、旅はインスピレーションの宝庫。時間を見つけては、家族や親しい友人とともに、国内外を問わず気ままに旅へ出かける。心がほどけるようなひととき、思いがけない人との出会い、そして、その土地ならではの特別なものとの邂逅——。子どものころの冒険心を思い出させてくれる旅こそ、彼女が何よりも大切にしているもの。軽やかさに満ちた大草さんの旅路には、彼女らしいセンスが光るエッセンシャルなアイテムがそっと寄り添う。


Q. いちばん最近の旅行は、どこに行きましたか?
3 度目になりますが、先日は宮古島に行きました。沖縄が好きで本島には部屋を借りていたこともあるくらいですが、宮古島はまた違う、良い意味ですごく田舎。緑も深いし、夜の星空は流星群が目視できるほど澄んでいます。行くたびに、豊かな自然こそ何事にも変えがたい贅沢なものだなと思わされる場所なんです。いつも水着を着て、暇さえあれば海に飛び込む。島にいる間は、子どもみたいになれる感じがすごく好きなんです。泳いで食べて飲んで……。子どもの夏休みですよね。でも、あえてそれがしたくて宮古島に行きます。
Q. 宮古島でのワードローブは、どのようなものが活躍しましたか?
宮古島では、マルティニーク×マディソンブルーのキャップがいちばん活躍しました。ワードローブはいつも、ベースを黒か茶色かどちらかに決めていくようにしています。旅先でファッションのストレスを感じたくないのですが、でも諦めたくもない。この2色のどちらかをベースしておけば、だいたい上手く行くんです。



Q. 海外旅行で、思い出に残っているところはどこですか?
仕事でもプライベートでも、あらゆるところに行っているので絞るのは難しいのですが、今年に入ってインドのジャイプールに行ったのはとても良かったです。ジャイプールは、インド中の宝石が集まってくる街でもあります。腕のいいジュエリー職人も多くて、手作業でさまざまな色石を加工しセットしてくれます。前回の旅で、インドの占星術師に面白いことを言われて。「左手の薬指に赤いルビーを、日曜日からつけ始めなさい」と。現地で作ったルビーの指輪が、先日ようやく出来上がって送られてきたので、言われた通り日曜日からつけ始めたばかりなんです。
Q. ジュエリーを作るという、目的がある旅も興味深いです。
インドではマハラジャに代表されるように、特に富裕層の方々は驚くほどたくさんのジュエリーを身につけるんです。
「アミュレット」と呼ばれ、お守りを意味したり、富や財を示すものでもあるそうですが、単なる装飾品というだけはないジュエリーの深い歴史を感じられたのはすごく良かったです。老舗のジュエラーの「ジェム・パレス」という店では、VIP ルームに通していただいて、マハラジャが結婚するときにつけたのだという、ものすごく高額な宝石をザラザラザラ〜と見せてもらって。一緒に旅した女性たち一同、きゃー!って盛り上がりました。そんな、ジャイプールの桁外れたジュエリーの文化がすごく面白くて。同時に整いすぎてないところも、気に入っています。

Q. おしゃれなレストランや、大草さんの常宿もあるのですか?
ジャイプールは、フランス人の入植者も多いので、おしゃれなレストランやブティックホテルもあったりします。ルビーのリングを一緒に作ってくださった石竹由佳さんという女性が、ジャイプールでブティックホテル「Artisav」をやられていて、前回はそこに滞在しました。4部屋の可愛いホテルで、それぞれの部屋にインドの街の名前が付けられて、その都市に由来した色でまとめられているのがすごく素敵なんです。私が滞在したのはまさに「ジャイプール」という名の部屋。ピンクのラグが印象的でした。ジャイプールは、通称“ピンクシティ” とも言われていて、旧市街は壁がピンク一色なんです。イギリスの統治下時代、当時のヴィクトリア女王と王子の訪問の際、街中の建物を王子が好きだったピンクに塗ったという名残らしいのですが、街がすごく可愛いんです。
インドは、合うか合わないかが本当に分かれる場所。私も最初は仕事だったので、自分では絶対に行かない場所だと思っていたのですが、行ってみたらすごく楽しかった。宗教上、ベジタリアンもすごく多いので、食事は野菜と豆とスパイスが中心でとてもヘルシー。さらにアーユルベーダの文化もあり、身体が整うという点でも気に入っています。


Q. いつもと違う旅で印象に残っている場所は?
3 年ほど前に、コロナで撮影の仕事がなくなったので、長女とふたりでメキシコに行きました。カンクンに入って、ロスカボスやメキシコシティを旅しましたが、ギャラリーや美術館が多いと言われているメキシコシティを、アート好きな長女と訪れたのは面白かったですね。私は、ディエゴ・リベラやフリーダカーロは知っていて好きでしたが、現代アートも面白かったです。到着した時、街中がレインボーデーみたいな感じで、羽をつけたドラァグクイーンたちがパレードをやっていました。私設の美術館もLGBTQ の展示やインスタレーションをしていて、それもまたすごく面白くて。アートが日常にあるんだなと実感しました。
Q. 旅先で美味しいものを探したりなど、現地情報はどのように手に入れますか?
メキシコの時は、出発する時に「メキシコ行きます!」というような感じでインスタにあげたら、現地に詳しい方がDMで素敵なところばかり教えてくれたんです。お話しするうちに、メキシコに住む日系の方だということがわかり、現地でお会いすることに。その彼女とご飯を食べ、「メルカド」というマーケットにも連れてってくれ、すごくいい出会いになりました。
Q. 旅先では、そういう突然の出会いも多いのですか?
そうなんです。先日の宮古島でも、タクシードライバーの方がものすごく親切で。格安で1 日中あちこちの海に乗りつけてくださったのが、印象的でした。インドでホテルを営む女性とも、空港のラウンジで偶然出会ったんですよ。
旅に出る時は、そういう出会いのアンテナがものすごく敏感になるんですね。絶対に逃さないようにするんで、いつも本当に偶然の出会いに助けられてる感じです。東京で普通に暮らしているだけではなかなかないような、そういう出会いがたまらなくて、旅に出るのかもしれませんね。

Q. 大草さんの旅支度で、いつも持っていくアイテムはありますか?

Q. 憧れの旅先はどこですか?
ポルトガルやクロアチア、ギリシャにも行ってみたいですね。このあたりの海のリゾート地って、大人のおしゃれが本当に美しいと思うんです。例えば、ヘビーリネンの白のレースのワンピースを着ていたり、パナマ帽やリネンシャツに真っ白のパンツを合わせていたり。大人だからこそ、お金や時間、経験にも余裕やゆとりがあるから、それが装いにも現れている海外のビーチリゾートはやはりすごく好き。カサカサに日に焼けてそばかすだらけの素肌に、どっしりしたリネンを羽織っていて、本当にかっこいいなと思うんです。白髪やグレイヘアをキュッとまとめて、黒のワンピース着て、そこにシルバーのバッグ持つとか……。そんな様子に「うわー!」ってなるような、大人がちゃんと楽しめるファッションと文化とそして心のスペースがある様子にとても憧れます。

Q. マルティニークのアイテムで旅先に持っていくとしたら、何を選びますか?
【アソースメレのカシミアストール】
季節問わず、そして機内でも旅先でも、カシミアは役に立つアイテムです。
【赤い小さなバッグ】
旅先では、黒やベージュ、グレーという服がベースになることが多いので、赤いリップみたいで可愛いバッグをアクセントにしたいです。海辺でもシティでも似合うし、機内のインバッグや2 個持ちでも使えそうです。
【ニットアンサンブル or 薄手のブルゾン】
シアーな羽織にもなるシャツは、冷房対策にもなるので旅に便利です。リトルブラックドレスの上にさっと羽織ってもジャケットみたいで、ディナーにも使えそうです。カジュアルに着るなら、斜め掛けで結んだりもできるのでさらにいい! 素材もポリエステル100%なのがよくて、旅先でさっと洗えて、ホテルの部屋にかけておけばシワもほとんど寄らずに乾くのでとても便利かなと思います。

スタイリスト、ファッションエディター
大草直子
東京都出身。大学卒業後、婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。雑誌編集に携わった後、ファッションエディター・スタイリストとして独立。幅広いメディアで活躍し、トークイベントや執筆業でも人気を集める。2019年にはメディア「AMARC」を立ち上げる。
