• WHAT IS AN ELEGANCE
2026.04.02
スタイリスト/ファッションエディター
大草直子さん【2/3章】
「素材に宿るエレガンス、
受け継がれる尊さ」
Text: MIKI SUKA, Photo: MINORU KABURAGI (SIGNO), Hair & Make-Up: TOMOKO KAWAMURA
出版社勤務を経て、スタイリスト/ファッションエディターとして独立してから、30年。大草直子さんは、ファッション誌のスタイリングやエディトリアルという枠を軽やかに越え、ブランドプロデュースやコラボレーション、さらには自身が立ち上げたメディア「AMARC」の運営など、常に時代とともに歩みを進めてきた。どんな場面でも手に取るように伝わってくるのは、ファッションへの尽きない情熱。その一方で、人を包み込むような屈託のない笑顔が、自然と周囲を惹きつける。30周年という節目の今、大草直子さんが見つめる、「装うこと」のその先にあるエレガンスを紐解く。

素材、空間、時間が
育てるエレガンス。
育てるエレガンス。
目には見えないエレガンスを、どう感じ、どう表現するのか。ファッションの世界で経験と感覚を磨いてきた大草直子さんが語るエレガンスには、感覚的な優しさに加え、もうひとつ大切にしている視点がある。
「エレガンスは、“素材”を通して伝わるものだと思っています。服のキャラクターは、色よりも素材が決めることも多い。カシミヤは多幸感があって、やわらかい人。リネンは自立していて、かっこいい人。シルクには、少しミステリアスな雰囲気があります」
「エレガンスは、“素材”を通して伝わるものだと思っています。服のキャラクターは、色よりも素材が決めることも多い。カシミヤは多幸感があって、やわらかい人。リネンは自立していて、かっこいい人。シルクには、少しミステリアスな雰囲気があります」

服は、光と空間の中で
完成する
完成する
自分自身は、デニムにカシミヤが似合う女性でありたい——そう語る大草さん。撮影の仕事ではデニムを軸にした装いが多い一方、非日常のドレスアップシーンでは、思い切りファッションを楽しむ。その際にも、彼女なりの明確なルールがある。
「気にしているのは、会場のライトの明るさや壁の色。白い空間では黒い服が映えるけれど、ダークな壁の場所では、暗い色は沈んでしまう。そんな時は、肌の分量を少し増やしたりして、バランスを取ります」
外から見た自分が、どう場に溶け込んでいるか。その感覚は、海外のレストランやホテルでの体験から学んだという。
「海外のレストランやホテルが素敵なのは、空間そのもの以上に、そこにいる人たちが空気をつくっているから。ドレスアップするときは、その“場所”に敬意を払って、その一部になろうとすることが大切だと思っています。ハワイで着る水着と、バリで着る水着が、私の中ではまったく違う存在であるように。そんなことを考える時間も、すごく楽しいんです」
「気にしているのは、会場のライトの明るさや壁の色。白い空間では黒い服が映えるけれど、ダークな壁の場所では、暗い色は沈んでしまう。そんな時は、肌の分量を少し増やしたりして、バランスを取ります」
外から見た自分が、どう場に溶け込んでいるか。その感覚は、海外のレストランやホテルでの体験から学んだという。
「海外のレストランやホテルが素敵なのは、空間そのもの以上に、そこにいる人たちが空気をつくっているから。ドレスアップするときは、その“場所”に敬意を払って、その一部になろうとすることが大切だと思っています。ハワイで着る水着と、バリで着る水着が、私の中ではまったく違う存在であるように。そんなことを考える時間も、すごく楽しいんです」

バロックパールを通して知る、
自分軸。
自分軸。
撮影ではモデルの内面を大切にし、プライベートでは場の空気に合わせて素材から服を選ぶ。大草さんが考えるエレガンスには、新しさや煌びやかさよりも、装う行為そのものにストーリーが宿るようだ。その象徴とも言えるアイテムが、母から譲り受けたバロックパールのネックレス。不揃いの大粒パールが有機的に輝き、存在感を放っている。
「エレガンスという言葉の中には、“本物”や、“形を変えずに残るもの”という意味も含まれていると思います。年月を経ても価値が残るものは、一朝一夕では身に着けられない。母が大切にしていたこのバロックパールは、私にとってエレガンスの象徴です」
ブラウンのツイードのセットアップに、ミンクの小さなティペット。そして大粒のパールネックレス。学校行事でもひときわ目を引くその姿を、「うちのお母さんって、きれいだな」と幼い頃から感じていたという。念願叶ってネックレスを譲り受けたのは30代の頃だった。
「でも、30代ではまったく似合わなくて。今ならトレーナーに合わせたりもできるけれど、母のようにツイードのセットアップに自然に似合うようになるには、まだ時間が必要だなと思っています」
「エレガンスという言葉の中には、“本物”や、“形を変えずに残るもの”という意味も含まれていると思います。年月を経ても価値が残るものは、一朝一夕では身に着けられない。母が大切にしていたこのバロックパールは、私にとってエレガンスの象徴です」
ブラウンのツイードのセットアップに、ミンクの小さなティペット。そして大粒のパールネックレス。学校行事でもひときわ目を引くその姿を、「うちのお母さんって、きれいだな」と幼い頃から感じていたという。念願叶ってネックレスを譲り受けたのは30代の頃だった。
「でも、30代ではまったく似合わなくて。今ならトレーナーに合わせたりもできるけれど、母のようにツイードのセットアップに自然に似合うようになるには、まだ時間が必要だなと思っています」

旅と共に刻まれた、祖父の時間。
もうひとつ、家族から受け継いだエレガントなアイテムが、ジャガー・ルクルトの腕時計だ。60代で北半球一周の旅に出た祖父が、ヨーロッパ滞在中に購入したという1960〜70年代のメモボックス。時間になると、ジリジリと音を立てる初期モデルは、時計愛好家垂涎の一本だ。
「祖父は、その旅の記録を自費出版していて、私はよく朗読させられていました(笑)。教師だった祖父は長野に住んでいましたが、私はそんな祖父が自慢で、大好きで。休みになると、ひとりでも祖父母の家に行っていました。会えない時は、俳句の文通をしていたんです」
進歩的で、常に一歩先を見ていた祖父。高校時代の留学も、「これからは絶対に海外に出た方がいい」と背中を押してくれたのは祖父だったという。
「祖父は、その旅の記録を自費出版していて、私はよく朗読させられていました(笑)。教師だった祖父は長野に住んでいましたが、私はそんな祖父が自慢で、大好きで。休みになると、ひとりでも祖父母の家に行っていました。会えない時は、俳句の文通をしていたんです」
進歩的で、常に一歩先を見ていた祖父。高校時代の留学も、「これからは絶対に海外に出た方がいい」と背中を押してくれたのは祖父だったという。

手で書くことの、エレガンス。
出雲で購入したというガラスペンもまた、「書く」という行為のエレガンスを思い出させてくれる存在だ。贈り物や誕生日カード、礼状、サンプル返却の際にも、大草さんは手書きの一筆を添える。
「万年筆よりも少しやわらかくて、ペンよりは味がある。インクをつけるというひと手間も含めて、その行為が気に入っています。頻繁には書けないけれど、やはりパソコンで文字を打つよりも、手で書く方がエレガントだなと思うんです」
「万年筆よりも少しやわらかくて、ペンよりは味がある。インクをつけるというひと手間も含めて、その行為が気に入っています。頻繁には書けないけれど、やはりパソコンで文字を打つよりも、手で書く方がエレガントだなと思うんです」

立ち止まることで見える、
次の景色。
次の景色。
家族から受け継いだもの、そして周囲から受けた数えきれない影響。それらを全身で受け止めながら、大草さんは休むことなく、次の物語を紡いできた。仕事を始めて30周年という節目の今年、彼女の中には新たな思いが芽生えている。
「自分で選んできたことですが、ありがたいことに、ずっと止まらずに走ってきました。でも今年は、少し強制的にスローダウンする時間があってもいいかな、と思っているんです。少しの間、異国の地で暮らしてみようかなと計画を進めているところです」
候補に挙がっているのは、ポルトガル、そしてスペイン。穏やかな海辺の街で、ひとり何を思い、何を感じるのか。大草直子さんのエレガンスは、また新しい時間の中で、静かに更新されようとしている。
「自分で選んできたことですが、ありがたいことに、ずっと止まらずに走ってきました。でも今年は、少し強制的にスローダウンする時間があってもいいかな、と思っているんです。少しの間、異国の地で暮らしてみようかなと計画を進めているところです」
候補に挙がっているのは、ポルトガル、そしてスペイン。穏やかな海辺の街で、ひとり何を思い、何を感じるのか。大草直子さんのエレガンスは、また新しい時間の中で、静かに更新されようとしている。
スタイリスト、ファッションエディター
大草直子
東京都出身。大学卒業後、婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。雑誌編集に携わった後、ファッションエディター・スタイリストとして独立。幅広いメディアで活躍し、トークイベントや執筆業でも人気を集める。2019年にはメディア「AMARC」を立ち上げる。